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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)625号 判決 1987年8月31日

国籍

韓国

住居

神奈川県横浜市中区本牧町一丁目一八六番地張泰益方

会社役員

玉山正洙こと張正洙

一九四八年四月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺尾淳出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、神奈川県横浜市旭区二俣川一丁目一番五号外数か所において、遊技場(パチンコ店及びゲーム店)等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して仮名預金を設定するなどの方法によりその所得を秘匿した上

第一  昭和五六年分の実際総所得金額が七九六五万七四三六円あった(別紙1同五六年分の修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所轄品川税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が三五七万九三九五円でこれに対する所得税額が四二万七六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六二年押第四七一号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四四五七万三〇〇〇円と右申告税額との差額四四一四万五四〇〇円(別紙2同五六年分の脱税額計算書参照)を免れ

第二  同五七年分の実際総所得金額が二億一四二八万六三二三円あった(別紙3同五七年分の修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同五八年三月一五日、神奈川県横浜市神奈川区栄町八番地六号所轄神奈川税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が四八一万六四四一円でこれに対する所得税額が六七万六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四五二四万一五〇〇円と右申告税額との差額一億四四五七万九〇〇円(別紙4同五七年分の脱税額計算書参照)を免れ

第三  同五八年分の実際総所得金額が一億一五一三万七八〇七円あった(別紙5同五八年分の修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同五九年三月一五日、東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号所轄目黒税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が一二四三万一四四八円でこれに対する所得税額が三二七万一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七一〇九万一二〇〇円と右申告税額との差額六七八一万九六〇〇円(別紙6同五八年分の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  榎本光子、浅野昭、澤谷すなほ、田中博幸、野口政宏、金森湧こと金湧日、金山こと金徳夫、金山好夫こと金徳用、杉原静夫、東海林章の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  現金調査書

2  普通預金調査書

3  定期預金調査書

4  定期積金調査書

5  通知預金調査書

6  土地・建物調査書

7  造作調査書

8  車輛運搬具調査書

9  工具・器具・備品調査書

10  保証金調査書

11  貸借権調査書

12  供託金調査書

13  未収入金調査書

14  仮払源泉税調査書

15  未払手形調査書

16  借入金調査書

17  未払給料調査書

18  預り金調査書

19  事業主勘定調査書

20  (有)スタジアム興業勘定調査書

21  (有)珠興産勘定調査書

22  事業専従者控除額調査書

23  青色申告控除額調査書

24  特別控除額調査書

25  受取利息調査書(利子所得)

26  定期積金給付補てん金調査書(雑所得)

27  受取家賃調査書(不動産所得)

28  支払利息調査書(不動産所得)

29  減価償却費調査書(不動産所得)

30  所得控除額及び税額控除額調査書

一  検察事務官作成の各報告書、各電話聴取書

一  押収してある所得税の確定申告書三袋(昭和六二年押第四七一号の1ないし3)

(法令の適用)

一  罰条

1  いずれも所得税法二三八条一項(懲役刑及び罰金刑を各選択)

2  罰金額につきいずれも同条二項

二  併合罪の処理

1  刑法四五条前段

2  懲役刑につき刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

3  罰金刑につき刑法四八条一項、二項

三  労役場留置

刑法一八条

四  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店、ゲーム店を主として経営してした被告人が、判示のとおり昭和五六年から同五八年までの三年度にわたって合計二億五六〇〇万円余りの巨額の所得税を免れたという事案もあって、右脱税のほ脱率も平均すると約九八パーセントと極めて高率であり、その動機も事業資金などを捻出・蓄積しようとしたにすぎないのであって斟酌すべき点などはなく、その手口は、遊技場等の経営がもともと所得把握の困難な業種であることに目をつけ売上を大幅に除外して多数の仮名預金を設定したりし、ゲーム店に至ってはこれを親族の者の経営であるかのように装い全く所得の申告をしないなど悪質なものであり、これらの諸点からすると、被告人の刑責は重く懲役刑についても実刑に処することが十分考えられるが、他方、被告人は昭和六二年になって起訴され、この間被告人をとり巻く環境も変化し、その資金力も減退したが、修正申告の上、多大な努力を払って本件に関する本税・重加算税等を納付したこと、当公判廷において本件各犯行を認める供述をするなどその非を深く反省、悔悟していること、被告人には昭和四四年傷害罪により罰金刑に処せられたことがあるものの、以後の処罰歴は全くないことなどの諸事情も認められ、その他被告人の家庭環境等本件前証拠から推認される被告人のため酌むべき一切の情状を考慮して懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 髙麗邦彦 裁判官 平木正洋)

別紙1

修正貸借対照表

玉山正洙こと

張正洙

昭和56年12月31日

<省略>

別紙2

脱税額計算書

年分 56

<省略>

別紙3

修正貸借対照表

玉山正洙こと

張正洙

昭和57年12月31日

<省略>

別紙4

脱税額計算書

年分 57

<省略>

別紙5

修正貸借対照表

玉山正洙こと

張正洙

昭和58年12月31日

<省略>

別紙6

脱税額計算書

年分 58

<省略>

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